人気ブログランキング | 話題のタグを見る

やっぱり永字八法

「永字八法」は書写・書道の入門書には必ずといっていいほど解説されていますが、教育現場では永字で筆法を教えるということは少ないようです。しかしながら「永字八法」は書字の規範であることは間違いありません。
活字書体においても、筆法の理解を深めるためには「永字八法」が有効だと考えています。漢字の要素としてみるよりも、結構を含めて統一的に筆法を習得することができると思うからです。
近代明朝体では説明しにくいので、宋朝体の「陳起」を例にして、もう一度「永字八法」を考えてみたいと思います。
やっぱり永字八法_a0386342_20153388.jpg

その「永字八法」ですが、現在の常用漢字の字体(上)では、横画と縦画が合体していてわかりにくくなっています。そこで、横画が独立している別字(下)で説明していきたいと思います。

横画の筆法
【勒】(ロク) 馬の頭に掛けて馬を御する革紐のことで、革紐を引き締めるように書く。
【策】(サク) 鞭のことで、鞭で叩くように書く。
やっぱり永字八法_a0386342_20153371.jpg

横画の筆法としては勒と策とが重複していますが、勒は三折法、策は二折法であると説明されています。勒は三折法横画ですので、「起筆?→送筆?→収筆?」の集合体です。収筆のある横画ということができます。
二折法である策は、「起筆?→送筆?」までの、収筆が省略された横画です。土偏・金偏などの最終画の勒は、収筆が省略された横画すなわち策に変化します。

豎画の筆法
【弩】(ド) 石を遠くに放つ石弓のことで、左に反るように書く。
やっぱり永字八法_a0386342_20153375.jpg

弩は収筆部が趯と合体しているのでわかりづらいのですが三折法の豎画です。つまり「起筆?→送筆?→収筆?」の集合体になっています。
「永字八法」にはありませんが、収筆のない豎画、「起筆?→送筆?」までの二折法豎画を懸針(ケンシン)といいます。その中間法が垂露(スイロ)で、近代明朝体の豎画はだいたい垂露になっているようです。懸針は「陳起」にはみられないので、説明用につくってみました。

撇画の筆法
【掠】(リャク) かすめることで、女性の長い髪を梳くように、ゆったりと左に払う。
【啄】(タク) ついばむことで、キツツキが木を突つくように書く。
やっぱり永字八法_a0386342_20153358.jpg

掠と啄は同じ撇画の筆法で重複していますが、掠は三折法、啄は二折法であると説明されています。
掠は「起筆?→送筆?→収筆?」を意識して、三折法でゆったりと左に払います。カーブを描きながら、収筆まで太さを保っています。
啄は「起筆?→送筆?」の二折法なので収筆が省略されています。啄は掠の収筆を省略した筆法で、直線的にまっすぐにすばやく画きます。

捺画の筆法
【磔】(タク) 裂くことで、肉を引き裂いて金刀が骨まで達するように、力を入れてじっくりと右に払う。
やっぱり永字八法_a0386342_20153338.jpg

捺画の筆法にも三折法と二折法があります。磔は三折法、「永字八法」にはありませんが、二折法捺画として「瓜子(カシ)」という筆法があります。
磔は三折法捺画ですので、「起筆?→送筆?→収筆?」の集合体です。収筆のある捺画ということができます。
磔は三折法捺画なので、収筆部で一度力を溜めて、じっくりと右に引き抜きます。
収筆を省略したのが瓜子です。木や金が偏にくるとき、磔の筆法が瓜子の筆法に変わります。同じ捺画の筆法で、三折法と二折法の違いなのですが、近代明朝体ではまったく異なる形状になります。

側の筆法
【側】(ソク) 筆と筆先の側面を使ってえぐるように書く。
やっぱり永字八法_a0386342_20153405.jpg

側は三折法で画きます。短いながらも「起筆?→送筆?→収筆?」があるので、じつは難しい筆法です。「陳起」では収筆が尖って三角形のようになります。
「永字八法」には含まれませんが、側の収筆部を省略した二折法が亀頭(キトウ)です。「起筆?→送筆?」で収筆を省略してすぐに下方に抜きます。亠、宀、广などの第一画が亀頭です。近代明朝体では豎画のようになりますが、じつは側の仲間です。


趯の筆法
【趯】(テキ) 高く抜きんでるように躍り上がること。
やっぱり永字八法_a0386342_20153499.jpg

趯は二折法なので「起筆?→送筆?」までで収筆部はありません。筆を左に回してから跳ね上げます。「陳起」では、ほぼ45度に少し長めに跳ね上げています。

参考にした書物:
『漢字の基本─学び方と教え方─』(関岡松籟著、日本習字普及協会、1984年)
『書の技法指南』(墨8月臨時増刊、芸術新聞社、1994年)
『書を学ぶ─技法と実践』(石川九楊著、筑摩書房、1997年)

by imadadesign | 2015-05-27 19:53 | 書体雑記帳[漢字書体]